ハグリッドの「魔法生物飼育学」の初授業でドラコ・マルフォイはヒッポグリフのバックビークを侮辱して襲われ医務室に運ばれる事となりました。それを利用してスリザリン・チームのキャプテンのマーカス・フリントは試合の延期を申し入れグリフィンドールの相手はハッフルパフに変更されて・・・(全3項目)

3-1.試合開始
試合当日雨は半端ないほどの激しさでした。風も物凄くピッチに出て行くと横様によろめくほどです。耳を劈く雷鳴が鳴り渡り観衆が声援していても掻き消されて耳に入りません。フーチ先生の言葉も耳に届きませんでした。

キャプテン同士が歩み寄り握手しました。セドリック・ディゴリーは微笑みましたがオリバー・ウッドは口が開かなくなったかのように頷いただけです。声が聞こえないので口の形で言っている事を判断するしかありません。

ハリーの目にはフーチ先生の口の形が「箒に乗って」と言っているように見えました。ハリーは右足を泥の中から抜いてニンバス2000に跨りました。フーチ先生がホイッスルを唇に当てて吹き鋭い音が遠くから聞こえました。

試合開始です。ハリーは急上昇しましたがニンバス2000が風に煽られやや流れました。できるだけまっすぐ箒を握り締め目を細めて雨を透かして方向を見定めながらハリーは飛びました。5分も経つとハリーは凍えていました。

他のチーム・メイトはほとんど見えず増してや小さなスニッチなど見えるはずはありませんでした。ピッチの上空をあちらこちらに飛び輪郭のぼやけた紅色やら黄色やらの物体の間を抜けながら飛ぶというそんな有り様です。

リー・ジョーダンの実況が聞こえないので試合がどうなっているのかも分りません。ブラッジャーが二度ハリーを箒から叩き落としそうになりました。メガネが雨で曇っていたのでブラッジャーの襲撃が見えなかったのです。

時間の感覚がなくなり箒をまっすぐ持っているのが段々難しくなりました。まるで夜が足を速めてやって来たかのように空はますます暗くなって行きました。ハリーは二度他の選手にぶつかりそうになり敵味方も分りません。

フーチ先生のホイッスルが鳴り響き土砂降りの雨の向こう側に辛うじてウッドのおぼろげな輪郭が見えました。ハリーにピッチに下りて来いと合図をしていました。このようにしてチーム全員が地上に着地をしたのでした。

「タイム・アウトを要求した!集まれ。この下に」

ウッドが吠えるようにこう言いピッチの片隅の大きな傘の下で選手がスクラムを組みました。ハリーはメガネを外しユニフォームで手早く拭うと「スコアはどうなっているの?」と訊きました。ウッドがこう答えたのでした。

「我々が50点リードだ。だが早くスニッチを取らないと夜に縺れ込むぞ」

3-2.吸魂鬼が
「こいつをかけてたら僕全然駄目だよ」メガネを揺らしながらハリーはこう腹立たしげに言いました。するとそこにハーマイオニーが現れてハリーのメガネに「インパービアス!防水せよ!」と防水呪文をかけてくれました。

ハーマイオニーの呪文は抜群に効きました。ハリーは相変わらず寒さでかじかんでいました。それにこんなに濡れた事はないというほどにびしょ濡れでしたがとにかく目は見えスニッチを探して四方八方に目を凝らしました。

ところが見えなくてもいいものまで見えるようになってしまったのです。ハリーはピッチの中心に戻ろうとして向きを変えました。それと時を同じくして光った稲妻が観客席を照らしハリーの目に何かが飛び込んで来ました。

巨大な毛むくじゃらの黒い犬がくっきりと影絵のように浮かび上がりました。一番上の誰もいない席にじっとしています。ハリーは完全に集中力を失いました。指が箒の柄を滑り落ちニンバス2000は1メートルも落下しました。

「ハリー!ハリー後ろだ!」

グリフィンドールのゴールからウッドの振り絞るような叫びが聞こえて来ました。慌てて見回すとセドリック・ディゴリーが上空を猛スピードで飛んでいます。ハリーも真っ平らに身を伏せてスニッチめがけて突進しました。

ところがでした。突然奇妙な事が起こりました。競技場に気味の悪い沈黙が流れました。風は相変わらず激しかったものの唸りを忘れてしまっていました。誰かが音のスイッチを切ったか耳が聞こえなくなったかのようです。

一体何が起こったのだろう?するとあの恐ろしい感覚が冷たい波がハリーを襲い心の中に押し寄せました。ハリーにピッチに何かがうごめいている事に気づいて考える余裕もなくスニッチから目を離して下を見下ろしました。

少なくとも百人の吸魂鬼がピッチに立ち隠れて見えない顔をハリーに向けていました。氷のような水がハリーの胸にひたひたと押し寄せ体の中を切り刻むかのようでした。そしてあの声がまたハリーの頭の中で聞こえました。

「ハリーだけはハリーだけはどうぞハリーだけは!」
「どけ馬鹿な女め!さあどくんだ」
「ハリーだけはどうかお願い。私を私を代わりに殺して」

「ハリーだけは!お願い。助けて。許して」


白い靄がぐるぐるとハリーの頭の中を渦巻き痺れさせました。一体自分は何をしているんだ?何故飛んでいるんだ?あの人を助けないとあの人は死んでしまう。殺害されてしまう。ハリーは冷たい靄の中を落ちて行きました。

3-3.ニンバス2000が
ハリーの耳には「地面が柔らかくてラッキーだった」とか「絶対死んだと思ったわ」とか「それなのにメガネさえ割れなかった」という囁き声が聞こえて来ました。でも何を言っているのかハリーには皆目見当がつきません。

「こんなに怖いものこれまで見た事ないよ」

怖い。一番怖いもの。フードを被った黒い姿。冷たい。叫び声。目を開けるとハリーは医務室のベッドに横たわっていてグリフィンドール・チームの面々が頭のてっぺんから足の先まで泥まみれでハリーの周りにいました。

真っ青な顔でフレッドが「ハリー!気分はどうだ?」と声をかけて来ました。稲妻に死神犬にスニッチとハリーの記憶が早回しの画面のように戻って来ました。ハリーが余りに勢いよく起き上ったので一同は息を呑みました。

ハリーが「どうなったの?」と訊くとフレッドが「君落ちたんだよ。ざっと。そう。20メートルかな?」と答えました。アリシア・スピネットは震えながら「みんなあなたが死んだと思ったわ」とそう付け加えたのでした。

「でも試合は試合はどうなったの?やり直しなの?」

ハリーがこう訊くと誰も何も言いません。恐ろしい真実が石のようにハリーの胸の中に沈み込みました。ハリーが「僕たちまさか。負けた?」と問うとジョージが「ディゴリーがスニッチを取った」とそう答えたのでした。

セドリック・ディゴリーは当初何が起きたのか気づいていなかったんだそうです。振り返ってハリーが地面に落ちているのを見て試合を中止にしようと言ったのだそうです。でもウッドでさえ認めるほどにクリーンに勝った。

「落ち込むなよハリー。これまで一度だってスニッチを逃した事はないんだ。一度ぐらい取れない事があって当然さ」

ハリーは顔を膝に埋め髪を強く握りました。そんなハリーにジョージがこう言いハリーを慰めました。それからハリーは自分を医務室に運んだのはダンブルドアとハーマイオニーから聞きました。本気で怒っていたそうです。

あんなに怒っていらっしゃるのを見た事がない。ハリーが落ちた時にピッチに駆け込んで杖を振った。そしたらハリーが地面にぶつかる前に少しスピードが遅くなった。それからダンブルドアは吸魂鬼に向けると杖を回した。

吸魂鬼に向かって何か銀色の物が飛び出して吸魂鬼はすぐに競技場を出て行ったそうです。それからダンブルドアは魔法で浮かぶ担架を出してハリーを乗せると担架に付き添って学校まで運んだんだそうです。そしてでした。

「誰か僕のニンバス捕まえてくれた?」

ハリーのこの問いにハーマイオニーが言いにくそうに「あの。あなたが落ちた時ニンバスは吹き飛んだの」と答えました。ハリーがさらに「それで?」と訊くとハーマイオニーは言葉を途切れがちにしながらこう答えました。

「それでぶつかったの。ぶつかったのよ。ああハリー。あの暴れ柳にぶつかったの」

ハーマイオニーは消え入るような声でフリットウィック先生があなたが気がつく直前に持って来たと言ってゆっくりと足元のバッグを取り上げ逆さまにすると中身をベッドの上に空けました。粉々になった木の切れ端でした。

敗北して散ったニンバス2000の亡骸でした。

今日の最後に
こうしてハリーはニンバス2000を失いました。しかし実はハリーは更なる痛手を蒙っていたんですよね。新学期初日の9月1日にホグワーツ特急は吸魂鬼の捜索を受けました。その際にハリーは気を失ってしまったんですよね。

そして誰かの叫び声を自分の頭の中で聞きました。それが実は母親のリリーがヴォルデモートに自分の命乞いをする叫び声だと今回はっきりハリーは認識したというわけです。それでハリーはさらに落ち込む事になりました。

ニンバス2000を失い吸魂鬼がそばに来ると聞こえて来るのが実は母リリーがヴォルデモートに自分の命乞いをする時の叫び声だった。まさにハリーにとっては弱り目に祟り目あるいは泣きっ面に蜂の出来事だったんですよね。

ハリーにとってこの敗北は不幸に追い打ちのアクシデントでもあったというわけなんですよね。でもこれを乗り越えた先にはハリーの更なる成長があったのです。
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