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突然月も星も街灯の明かりも遠くに聞こえた車の音も庭の木々のざわめきも消えました。当初ハリーは必死に我慢していたのに魔法を使ってしまったのかとそう思いました。しかしやがて理性が感覚に追いつきました。到底信じられない事が起きていたのです。それは?(全3項目)

3-1.恐れていた音が聞こえて来て
ハリーは何か見える物はないかとあっちこっちに首を回しました。しかし暗闇はまるで無重力のベールのようにハリーの目を塞いでいました。恐怖に駆られたダドリーの声がハリーの耳に飛び込んで来たというわけですよね。

「な何をするつもりだ?辞めろ!」

これにハリーは「僕は何もしていないぞ!黙っていろ。動くな!」と答えました。しかしダドリーはまるでハリーの言った事が聞こえなかったかのように「み見えない!僕め目が見えなくなった!僕」とそう言ったのでした。

ハリーは「黙ってろって言ったろう!」と言うと見えない目を左右に走らせながら身じろぎもせずに立っていました。激しい冷気でハリーは体中が震えていました。腕には鳥肌が立って首の後ろの髪は逆立っていたのでした。

ハリーは開けられるだけ大きく目を開けて周囲に目を凝らしましたが何も見えません。そんな事は不可能だ。あいつらがまさかここにいるなんて。リトル・ウィンジングにいるはずがない。ハリーは耳をそばだてたのでした。

あいつらなら目に見えるよりも先に音が聞こえるはずだと思ったからです。ところがまたもダドリーが邪魔立てして来ました。ダドリーは「パパにい言いつけてやる!どどこにいるんだ?な何をして?」と口走ったのでした。

ハリーは歯を食い縛ったまま「黙っててくれないか?聞こうとしてるんだから」と囁きました。ハリーは突然沈黙しました。まさにハリーが恐れていた音を聞いたのです。路地にはハリーとダドリーの他に何かがいたのです。

その何かがガラガラとかすれた音を立てて長々と息を吸い込んでいました。ハリーは恐怖に打ちのめされ凍りつくような外気に震えながら立ち尽くしたのでした。するとまたしてもダドリーが口を開いてこう言ったのでした。

「や辞めろ!こんなこと辞めろ!殴るぞ!本気だ!」

3-2.複数の吸魂鬼
ハリーは「ダドリー黙れ」と言おうとしましたがそんな短い言葉さえ言い終わらない内にダドリーの拳が音を立ててハリーの側頭部に命中してハリーは吹き飛びました。目から白い火花が散りハリーは杖を取り落としました。

頭が真っ二つになったかと思ったのはこの1時間の内にこれで二度目でした。ハリーは地面に打ちつけられてしまいました。ハリーは痛みで目を潤ませながら「ダドリーの大馬鹿!」と言うと慌てて這いつくばったんですよね。

暗闇の中を必死で手探りして杖を探しました。ダドリーがまごまご走り回り路地の壁にぶつかってよろける音が聞こえました。ハリーはダドリーに「ダドリー戻るんだ。あいつのほうに向かって走ってるぞ!」と言いました。

ギャーッと恐ろしい叫び声がしてダドリーの足音が止まりました。同時にハリーは背後にぞくっとする冷気を感じました。間違いない。相手は複数いる。ハリーは今度はダドリーに対してこう言ったというわけなんですよね。

「ダドリー口を閉じろ!何が起こっても口を開けるな!」

それからハリーは「杖は!どこだ。杖は。出て来い」と死に物狂いで呟きながら両手を蜘蛛のように地面に這わせました。杖を探すのに必死で明かりを求めてハリーは独りでに「ルーモス!光よ!」と呪文を唱えていました。

すると何とうれしい事に右手のすぐそばが明るくなりました。杖先に灯りが点ったのです。ハリーは杖を引っ掴むと慌てて立ち上がり振り向いたのでした。ハリーの胃が引っくり返りました。そこに吸魂鬼がいたからでした。

フードを被った聳え立つような影が地上に少し浮かんでスルスルとハリーに向かって来ます。足も顔もローブに隠れた姿が夜を吸い込みながら近づいて来ます。よろけながらハリーは後退りをすると呪文を唱えたのでした。

「守護霊よ来たれ!エクスペクト・パトローナム!」

銀色の気体が杖先から飛び出し吸魂鬼の動きが鈍りました。しかし呪文はきちんとかかりません。ハリーは覆いかぶさって来る吸魂鬼から逃れて縺れる足でさらに後退りしました。恐怖でハリーの頭はぼんやりしていました。

ハリーは自分に「集中しろ」と言い聞かせました。ヌルッとした瘡蓋だらけの2本の灰色の手が吸魂鬼のローブの中から滑り出てハリーのほうへと伸びて来ました。ハリーは耳鳴りがしました。再び守護霊を出そうとしました。

しかし呪文を唱えるハリーのその声はぼんやりと遠くに聞こえました。最初のより弱々しい銀色の煙が杖から漂いました。もうこれ以上できない。呪文が効かない。ハリーの頭の中で鋭くて甲高い高笑いが聞こえて来ました。

吸魂鬼の腐った死人のように冷たい息がハリーの肺を満たし溺れさせました。何か幸せな事を考えろ。しかし幸せな事は何もない。吸魂鬼の氷のような指がハリーの喉元に迫って甲高い声はますます大きくなって行きました。

「死にお辞儀するのだハリー。痛みもないかもしれぬ。俺様には判るはずもないが。死んだ事がないからな

もう二度とロンとハーマイオニーに会えない。息をつこうともがくハリーの心に2人の顔がくっきりと浮かび上がりました。ハリーは「エクスプレス・パトローナム!」と唱えて杖先から巨大な銀色の牡鹿が噴出したのでした。

その角が吸魂鬼の心臓に当たるはずの場所を捉えました。吸魂鬼は重さのない暗闇のように後ろへと投げ飛ばされました。牡鹿が突進をすると敗北した吸魂鬼は飛び去りハリーは牡鹿に向かって「こっちへ!」と叫びました。

3-3.二体目の吸魂鬼を
叫ぶと同時にハリーは瞬時に向きを変えて杖先の灯りを掲げて全力で路地を走ると「ダドリー?ダドリー!」と名前を呼びました。十歩と走らずにハリーはその場所に辿り着きダドリーは地面に丸くなって転がっていました。

そして両腕でしっかり顔を覆っていました。二体目の吸魂鬼がダドリーの上に屈み込み両手でダドリーの手首を掴みゆっくりとまるで愛おしむように両腕をこじ開けフードを被った顔を下げまさにキスしようとしていました。

ハリーが大声で「やっつけろ!」と言うとハリーが創り出した銀色の牡鹿は怒涛の如くハリーの脇を駆け抜けて行きました。吸魂鬼の目のない顔がダドリーの顔すれすれに近づいたその時に銀色の角が吸魂鬼を捉えました。

銀色の牡鹿は吸魂鬼を空中に放り投げました。吸魂鬼はもう一体の仲間と同じように宙に飛び上がって暗闇に吸い込まれて行きました。牡鹿は並足になると路地の向こう端まで駆け抜けて銀色の靄となって消えて行きました。

月も星も街灯も急に生き返りました。生温い夜風が路地を吹き抜けました。周囲の庭の木々がざわめきマグノリア・クレセント通りを走る車の音が再びあたりを満たしました。吸魂鬼が去ってハリーはじっと立っていました。

突然正常に戻った事を体中の感覚が感じ取り躍動していました。ふと気がつくとTシャツが体に張りついていてハリーは汗びっしょりでした。今しがた起こった吸魂鬼が現れたという事がハリーには到底信じられませんでした。

吸魂鬼がここリトル・ウィンジングに現れるなんて。一方ダドリーは泣き震えながら体を丸めて地面に転がっていました。ハリーはダドリーが立ち上がれる状態かどうかを見ようと身を屈めました。するとその時の事でした。

背後から誰かが走って来る大きな足音がしました。ハリーは反射的に再び杖を構えてくるりと振り返ると新たな相手に立ち向かおうとしました。近所に住む猫好きの変人のフィッグばあさんが息せき切って姿を現しました。

灰色まだらの髪はヘアネットからはみ出し手首にかけた買い物袋はカタカタ音を立てて揺れタータンチェックの室内用スリッパは半分脱げかけていました。ハリーは急いで杖を隠そうとしました。ところがだったんですよね。

「馬鹿。そいつをしまうんじゃない!」

こう叫んだ後フィッグばあさんは「まだ他にもその辺に残ってたらどうするんだね?」と言ってハリーに杖をしまうなとそう言ったというわけです。そしてさらにマンダンガス・フレッチャーの名前を口走ったんですよね。

今日の最後に
吸魂鬼が近づいて来るとその人にとってこれまでの人生の中で最悪の記憶が頭の中に浮かんで来ます。この場面で注目すべきはハリーの頭の中に浮かんだその最悪の記憶が以前のものとは変わっているという事なんですよね。

以前は1才の時に母親のリリーが自分の命乞いをヴォルデモートにした際の記憶でした。ところが今回はリトル・ハングルトンの教会墓地で復活した直後のヴォルデモートと対決をした時の記憶だったというわけなんですよね。

誰も助けに来てくれる見込みがなくハリーが死を覚悟した時の記憶でした。ほんの1ヵ月ちょっと前の出来事だったんですよね。この時ハリーは絶望的な状況でしたが予想外の出来事が起きて何とか学校に戻る事ができました。

それならばバーノン叔父さんがもし吸魂鬼と出会ったらどんな最悪の記憶が頭の中に浮かぶんでしょうね。私はハリー絡みの記憶が有力候補だとそう思いますね。それはもうあれもこれもと思い当たる記憶が沢山ありますね。

第1にはハリー11才の誕生日の直前にホグワーツからの手紙を皮切りに次から次へとハリー宛ての手紙が大量に届いた事です。叔父さんがどれだけ対策を施しても逃げても逃げてもハリー宛ての手紙がそれも大量に届きました。

挙句の果てにはハグリッドという大男が現れハリーにお前は魔法使いだと告げ海の上に浮かぶ小島にダーズリー一家を置き去りにしてしまいました。その翌年にはハリーが商談を台無しにしてしまったなんて事もありました。

おまけにハリーは未成年の魔法使いは学校外で魔法を使ってはいけないという事を内緒にしていました。これが第2の有力候補というわけです。第3はテレビのニュースで見た脱獄犯がハリーの名付け親という事もありました。

いずれの3つともバーノン叔父さんにとっては最悪中の最悪の出来事で有力候補と言えると私はそう思いますね。
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